「いじめ」をなくすためには
「いじめ」は昔もありました。
私もかつてはいじめられっ子でしたが、だからといってあまり嫌な思い出はありません。
いま問題となっているのは、昔のいじめと違ってその経過が長く、陰湿で、子どもがノイローゼになったり、登校拒否をしたり、場合によっては被害者の人権が損なわれ、死に追いやることさえあるということです。
その点で、われわれ大人は真剣に考えなければなりません。
このような「いじめ」の原因を明らかにすることはたいへん困難ですが、家庭・学校・社会の多様な要因によって起こる構造的な子どもの心の問題と考えられます。
しかし、学校での子どもの病いであることを忘れてはならないのです。
最も重要なのは、いかに心身ともに健康に生まれた子どもでも、その育つ環境、学校を含めての生活する環境によって「いじめっ子」になり、また「いじめられっ子」になりうることではないでしょうか。
すなわち、これは問題行動ではなく、行動問題なのです。
私は、「問題」というレッテルを子どもたちの行動にはり付けたくありません。
いうなれば、体の病気である「風邪」や「下痢」のように、対応のいかんによって治りうる心の病気であって、先天性の心臓病とか小児病というような治りにくい、場合によっては治らないものではないといえるのです。一過性に起こった行動の問題として、優しい目で見てあげたいと思うのです。
「いじめっ子」の対策として、教育的にみて最も重要なのは、子どもに優しい心を育てること、人間関係を信頼し、他人を受容する心、他人の悩み、苦しみ、痛みを読みとる知性を育てることではないでしょうか。
それには、安定した家庭のなかでの乳幼児期の親子関係、なかんずく豊かな母子関係を作り、やさしさの体験をすることが必要ですが、
子どもの良い点を積極的に認める態度も重要だと思います。
不幸にして、家庭のなかでそういった心が育っていない子どもは、「いじめっ子」になる可能性が高く、それに続く学校、社会の教育環境によっては行動問題を起こしうると思うのです。
ですから、子どもにかかわる人は、とくに悩み迷う心を読みとる力を持つこと、子どもへの優しい目を持つことが重要なのです。
子どもの「いじめ」には「しごき・制裁・非行型」と「遊びの荒廃・悪ふざけ・パロディ型」とがあるといわれていますが、
これらは互いに移行しうるものであることに注意しなければなりません。
いじめられる子どもは、その子の属する集団のなかで異種な子が多いようです。
服装や態度が皆と違うとか、興味の対象が違って仲間に入れないとか、外国帰りとか、ときには心身に障害があるとか、そんな子が優しさ、豊かな心を持っていない子たちにいじめられるようです。
子どもは、生態システムとしての生活環境との相互作用で育ってゆきます。
したがって 「いじめ」を予防するには、子どもの持って生まれた心と体のプログラムを円滑に作動させ、健康な心と体を育て、
子どもの時期ばかりでなく、成人期においても社会生活を手際よく行うことができるように、質の良い生活環境を、物質的な豊かさよりも人間的な豊かさを与えなければならないと思うのです。
そのためには、豊かな親子関係とともに、小児期全般にわたって、心と体のプログラムがフル回転するように、子どもたちどうしの「遊び」の機会を多くすることがなによりも必要だと思います。
「遊び」は、子どもの年齢によって違いますが、人との、道具・おもちゃなどとの、さらに自然との相互作用による三つのパターンに分けられますが、
そのいずれもが単に楽しんだりストレスからの解放に役立つばかりでなく、子どもの健康な心と社会性を育てるのに重要な役割を果たしているのです。
とくに、日本人としての心を育てるためには、日本文化とともに育ってきた伝統的な「遊び」の復活も必要でしょう。
さらに、年齢とともに「遊び」の延長としてのスポーツを活発にさせ、子どもたちに集団で遊ぶ機会を作ることも重要だと思います。
また、社会生活を営むためには、人間としてなすべきこと、善いこと悪いことのけじめ(規範意識)からはじまって、礼儀作法、あるいは言葉遣いなどの基礎・基本としての「しつけ」も重要であることは言うまでもありません。
言葉遣いや礼儀作法は対人関係をつくる原点だからです。
なお、こういった教育が有効に行われるためには、家庭での親子の間、教育の場での教育する者と子どもとの間に信頼関係が確立していることが必須だと思います。
こういった「心のきずな」が出来上がっていなければ、良い「しつけ」はできないのです。
したがって、心のきずなができていれば体罰も多少は効果があるかもしれませんが、いたずらに用いてしつけるような教育態度は、この立場から問題となるのではないでしょうか。
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