子育てで大切なこと
私は子育てで大切なことは、「子どもの力を信じ、育てること」だと思っています。
いくら母親ががんばっても、それ以上のことはできないのです。
でも、小さな赤ちゃんを抱えているお母さんたちのなかには、その力を信じきれない人が少なくないように思います。
だから、「私がしっかりしないと…」ということになってしまうのです。
実は学問的にも、ある時期まで「生まれたばかりの赤ちゃんの精神世界はまとまりがなく、そのために外からの刺激を上手に受け入れることができない」と考えられていました。
赤ちゃんは、外からの刺激を遮断する「刺激障壁」によって守られていて、自分の世界のなかに閉じこもっていると思われていたのです。
赤ちゃんが外の世界と交流をもてない存在だと仮定すれば、当然、親が外部の情報を取捨選択して赤ちゃんを守りながら、精神世界を成長させていかなくてはならないということになります。
今でもそのようなことが書かれてある一般書や育児書がありますが、
最近の研究では、赤ちゃんには、赤ちゃんなりの方法で外の世界と積極的に交流し、成長していく力があることがわかってきています。
赤ちゃんは生まれてまもないころから、すでにお母さんのにおいをかぎわける力があるという話をご存じですか。
このことは、1975年に行われたマクファーレンの研究であきらかになりました。
マクファーレンは、生後3日目の赤ちゃんの枕もとの片側にお母さんの胸あてを置き、もう一方の側に別の赤ちゃんのお母さんの胸あてを置きました。
すると、赤ちゃんは必ず自分のお母さんの胸あてのほうへ頭を向けたのです。
また、ファンツの報告では、赤ちゃんは上下対称の絵よりも、人間の顔と同じ左右対称の絵のほうを長く見つめることがわかっていますし、ソロコフやバーラインの研究では、赤ちゃんが微笑みの表情を見飽きてしまっても、驚きの表情をみせると再び興味をもって見つめ直すことがわかっています。
つまり、赤ちゃんは主体的に外部からの刺激を受け入れようとしているのです。
しかも、赤ちゃんはあるひとつの感覚器から入手した外界の情報と、ほかの感覚器官から入手した情報とをつなぎあわせて、上手に活用することもできるのです。
とはいっても、雲をつかむような話でわかりにくいと思うので、実際にこのことについて研究したメルツォフとバートンの実験の様子を紹介しましょう。
彼らは、生後3週目の赤ちゃんに目かくしをし、ある赤ちゃんにはスベスベしたおしゃぶりを吸わせ、また別の赤ちゃんにはブツブツのついたおしゃぶりを吸わせました。
その後、目かくしをとり、赤ちゃんの目の前にスベスベのおしゃぶりとブツプツのおしゃぶり両方を置いて、どんな反応を示すかを観察しました。
すると、スベスベのおしゃぶりを吸っていた赤ちゃんはスベスベのおしゃぶりに目を向け、ブツブツのおしゃぶりを吸っていた赤ちゃんはブツブツのおしゃぶりに目を向けたのです。
この実験から、赤ちゃんたちは舌で感じた情報を脳にインプットし、その情報を目で見た体験と結びつけた、ということがわかりました。
こうした研究結果が報告されるまでは、さきに説明したように、赤ちゃんの精神世界はまとまりがなく混沌としていると考えられていました。
しかし、これらの研究から、赤ちゃんは生まれてまもない時期からすでに外部の情報を関連づけて体験する能力を備えていることがわかり、従来の説はくつがえされたのです。
もちろん、赤ちゃんは大人と同じかたちで外の世界を体験しているとは限りませんが、主体的に外の世界と交流する力をもっていることはあきらかです。
私はこのような子どもがもつ力をもっと信じていいと思うのです。
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