子供の「反抗期」がなければ、それでいいのか
反抗期は心身の成長の証という意見もあります。
はたしてそうでしょうか。
様々な視点で考えてみましょう。
子供の反抗期で悩んでいる親へ処方箋
私は「本当に反抗期って、なくなってもいいものなの?」とどうしても思ってしまうのです。
「仲よし親子、それでいいのだ」と思いながらも、どうしても私の頭をそんな疑問がよぎってしまいます。
それは、学生たちの姿が精神科やカウンセリングで出会った(いい子)と重なってしまうからです。
最近、診察室に来る子どものなかにも、「反抗期がなかった」「ずっといい子だった」という子が増えた、という話をよく聞きます。
でも、ちょっと考えてください。
彼らは、
「いまは、家から外に出られない、ダイエットをやめられない、自分の身体を傷つけてしまう」
といった深刻な問題を抱えているからこそ、クリニックまでやってくるわけです。
ずっと(いい子)で親とも仲よしだった子どもが、どうしてそんな泥沼にはまってしまったのでしょう。
ここで、ひとつの例として 「トモコ(仮名)」という子のケースを紹介しながら、この間題を考えてみましょう。
その子、トモコは、地元の中学校に通う3年生でした。
親が言うには、トモコは小さなころから親を困らせたことが一度もなく、自分から進んで宿題もするし家の手伝いもする、だれからもはめられる(いい子)だったとのことです。
「こうしなさい」と親が言うと、「はーい」とすぐに返事をし、「イヤだよ」と反発することはほとんどなかったといいます。
小学校、中学と成績もずっとよく、学校では先生がクラスで、「トモコさんを見習いなさい」といつも言っていたそうです。
周囲の期待通り、トップクラスの成績で中3になったトモコは、クラス替えでいままで出会ったことのなかった同級生グループに出会います。
彼女たちは見た目もとてもおとなっぼく、「私はこう思う」「私はこうしたい」と自分の意見をはっきり言うグループでした。
たとえ相手が先生でも、自分と意見が違っているときは、「それは間違ってると思います」などと言い返します。
もうボーイフレンドがいるという子もいるようでした。
「昨日、親とケンカしてさ、チョームカついたから彼氏の家にプチ家出してやった」
といった声も聞こえてきます。
親や先生の言うことはなんでもきいてきたトモコにとっては、考えられないことでした。
最初、トモコは、
「あの人たちって(悪い子)(ダメな子)なんじゃないだろうか、いまに落ちこぼれになるんじゃないか」
と思いました。
しかし、1学期の中間テストでその予想は見事にはずれたことがわかりました。
クラスの成績上位者のほとんどは、彼女たちで、「はっきりしたことを言うグループの子」で占められていたのです。
「あんなに好き勝手して先生にも逆らって遊んでばかりいる(悪い子)なのに、こんなにがんばっている私より成績がいいなんて…」
とトモコはショックを受けました。
1学期が終わり、夏休みがはじまりました。
ずっと、
「あの子たちに勝つにはどうしたらいいんだろう」
と考えていたトモコは、
「夏休みのうちにかっつこいいスタイルになれば、2学期にみんなをびっくりさせられるかも」
とダイエットをはじめることにしました。
最初は親に気づかれないように、おかずやごほんを少し残す方法からはじめましたが、体重が少し減りはじめると、「もっとやせたい!」と強く思うようになりました。
ある日の夕食のテーブルで、トモコはついに言ったのです。
「ママ、今日から私、ゴバン食べないからね。
おかずも野菜だけにして」
びっくりした母親は、
「なに言ってるの?野菜だけじゃ栄養もエネルギーも足りなくて、勉強にも集中できなくなっちゃうじゃない。
だいたいあなた、最近、食欲もないし顔色も悪いわ。
どこか身体の調子がおかしくなってるんじゃない?
明日、ママといっしょに内科の先生のところに行きましょう」
と早口で言いました。
それを聞いているうちに、トモコの頭の中で何かがプツンと音をたててはじけ、頭がまっ白になりました。
それから、トモコは、
「うるさい、うるさあーい! 何よ、お母さんなんて自分の勝手ぽっかり押しっけて!
私、これまでずっとガマンして言うこときいてきたけど、もうイヤ!
絶対にお母さんの言うことなんて、きかないからね!」
と言いました。
トモコは、自分でも驚くほどの大声で、そんなことを叫んでしまっていたのです。
そして、叫びながら、
「そうか、私っていままでガマンしてきたんだ…。
親の言うことが ”イヤだな””違うな”と思っても、そう口に出さなかっただけだったんだ…」
とはじめて気づきました。
それからトモコは、母親の作った食事にはいっさい手をつけず、わずかなお菓子や水だけを口にして、あとは一日中、自分の部屋に引きこもるようになりました。
母親や父親が部屋に入ろうとすると、「出ていけ!」と大声をあげます。
親に無理やり連れられてクリニックに来たときは、頬はこけ、太ももや腕が棒のように細くなっており、「拒食症」の状態にあることは間違いないようでした。
母親は、私の前で、
「先生、トモコはずっと自慢の(いい子)だったんです。
それがあんな怒鳴り声をあげるなんて、信じられません。
お願いです、トモコを昔の(いい子)に戻してください」
と涙をこぼしました。
問題は、トモコが(いい子)じゃなくなってしまったことにあるのでしょうか?
トモコが怒鳴るのをやめ、部屋から出てきてまた元通りに食事をしたり勉強をしたりするようになれば、それですべては解決なのでしょうか。
ここでちょっと注目したいのは、トモコが(いい子)じゃない同級生の行動を見ているうちに、こう気づいたことです。
「私は、これまでずっとがまんしてたのに!」
そう、トモコはただ素直でものわかりのよい(いい子)だったわけではなくて、
どこかで無理をしながら、親の言うことをなんでもきき、自分から進んで家の手伝いや勉強をする(いい子)だったにすぎないのです。
クラスのあの(いい子)じゃない子たちは、実は本当の(悪い子)ではなくて、(がまんしない子)(自分らしく生きている子)だったのだ…。
そう気づいたときにトモコの心の中で、これまでずっと
「いい子にしなきゃ」と無理をしていい子をしてきた緊張の糸がプツンと切れ、親に対してものすごい反発心や怒りが一気にわいてきたのでしょう。
ですから、無理をしてトモコをいい子にしようとすれば、トモコがまた「がまんする子」「自分を押し殺す子」に戻ることではありません。
それよりもこれからしなければならないことは、トモコがもう緊張して無理をすることなく、たとえ相手が親や先生だとしても、言いたいことは言う、したいことはする、と自然に自分らしく振る舞えるようにすることです。
それを、トモコ自身にも、それ以上に親たちにもわかってもらわなけれげならないのです。
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