親と子双方の自立
「思春期の子育てとは、親と子双方の自立のためのたたかいでした」
というのは、一人娘の非行に苦しんだ母親・山科(仮名)さんです。
子を縛りつけていないか
「ひとりでは、どこにもいけないような内気な子」と思っていた中学二年生の娘の突然の家出。
三日目に警察に保護されましたが、その日を境に、かけがえのない一人娘は別人のように変わってしまったのです。
「わたしは、あんたたちのペットじゃない」
警察に引き取りにいった両親に、彼女はそういい放ちました。
親にたいするはじめての反抗です。
以来、喫煙、無断外泊、不純異性交遊といった非行を重ねることになります。
思いあまって、はげしく殴打したこともあります。
子どものまえに手をついて、泣いて頼んだこともあります。
しかし親が一生懸命になればなるほど、娘は親から遠ざかっていきました。
「ときには、子どもを突き放すことも必要です」
学校の先生はそういって、
・門限を八時と決め、その時刻が過ぎたら家に入れないこと、
・相手がこちらを親として扱うまで、金はピタ一文あげないこと、
・子どもには、いっさい期待しないこと
の三つのことを、親が断固として実行するように助言しました。
子煩悩の山科さん夫婦にとって、これは至難なことでした。
紆余曲折はありましたが、二人は心を鬼にして実行しました。
一八〇度転換した親の態度に、娘は一時は狂ったように母親に暴力をふるったりしましたが、親の姿勢が本物であることを知ると、しだいに態度を改めるようになりました。
そして山科さんも、
「高校を卒業したら就職して、アパートを借りて独立したい」
という娘に、
「あなたの人生は、あなたが決めること。
独立するということがどういうことか、あなたが本当にわかっているのなら、あえて反対はしません」
といえるほどに、わが子を客観視できるようになりました。
この山科さんの例は、少し重度の非行に走った子どもという特殊なケースではありますが、巣立ちを控えた思春期の子どもにたいする親のあり方を、教訓的に教えています。
ところで、門限の時刻が過ぎたら家に入れないというやり方について一言ふれておきたいと思います。
この山科さんの場合、子どもの性格や親子関係、そしてこれまでの経過をよく知る先生のアドバイスだったわけですが、このやり方がどの子にも通用すると考えたら困ります。
締め出されたことをいいことに、平気で夜遊びしたり、外泊するようになるケースもあるからです。
事実、門限に遅れた高校一年生の娘を締め出した結果、友だちと二十四時間営業のレストランで過ごし、以来朝帰りも平気でするようなことになってしまったという話があります。
子どもへのきびしい叱り方で「出て行け」が通用したのは、もうかなり昔のことではないでしょうか。
いまでは、家から締め出されても、子どもが一晩や二晩過ごすところぐらいはいくらでもある世の中です。
原則的にいえば、「出て行け」といったり、門限を破ったからといって締め出してしまうようなやり方はすべきではありません。
山科さんの場合は、これまでの親子の関係をじゅうぶんに考慮に入れたうえでのことだったのでしょうが、
生半可な態度ではなく、腹をくくって親の真剣な姿勢を示すことで子どもの目を覚ますことに成功したのです。
ところで、すでに故人となった評論家の古谷綱武氏は、子どもが親の所有物とみなされていた昔は、「子どもはもっとも安価な投資による確率の高い老後保障であった」といいました。
しかし、親と子の別居が当然のように考えられている今日では、親は高価な投資をしたうえに、子どもにおもねる形で依存するようになったように思います。
子どもを有名校に入れることに懸命な親が少なくありませんが、
このような親にとって子どもとは「エリート」という血統書付きの愛玩動物にすぎない、
といったらいいすぎでしょうか。
そこまでいかなくても、「愛情」という名の親のエゴイズムによって、自立のための翼を切りとられた「手乗りインコ」のような子どもが、多くなっているのも事実です。
山科さんの娘は非行という形で親からの逃避を図ったと見るべきでしょう。
子育てを楽しむ親の気持ちが子どもに伝わる
「何十年も子育ての楽しみを与えてもらったのですから、これからは子どもも親も、それぞれに自分の人生を生きていきます」
子どもが幼いころに夫と離婚した森村(仮名)さんは、大学生になった一人娘の子育てをふり返って、次のように語りました。
「子どもに依存せず、つねに親として自立しつづける努力をしたからこそ、子育てを楽しむ心のゆとりができたのだと思います。
子育てが楽しいという親の気持ちは、黙っていても子どもに伝わるでしょうが、わたしはおりにふれ、子どもが好きなこと、子育てが楽しくて仕方ないことを話して聞かせました。
子どももそれにこたえてくれたように思います。おかげで、娘はのびのびと育ちました」
つねに子どもとともに成長する母親でありたいと念じてきた森村さんは、いまも娘といっしょに、ラジオで英会話や古典の勉強をしたり、読書をしたりしています。
この森村さんのような親の姿勢こそ、危機の年代といわれる思春期の子育ての基本ではないでしょうか。
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