子供のしつけを「押しつけ」と混同していませんか?
子どもが赤ちゃんを卒業するころになると、親はだれでも「しつけ」にとりかかることになるでしょう。
世の中のマナー、よいこととわるいことの区別だけは教えておきたいと考えだすのです。
これは一見当たり前のことのように思われますが、
でも、いったいなぜ「しつけ」は必要なのでしょう。
どうして親は熱心にしつけにかかるのでしょうか。
それはたぶん、そうしておかないと大きくなったときに困る、世間からはなつまみものにされかねないといった恐れを持つからでしょう。
そのうえに、きちんとした人格をつくってやりたい、他人に迷惑をかけるような人物には育てたくないといった希望もオーバーラップしているかもしれません。
そうだとすると、「しつけ」は、多分に世間的な価値とか効用をはらむ性質のものかと思われてきます。
つまり、世の中で成功するための、いわばマニュアルを仕込むことといったらいいすぎでしょうか。
しかし、すくなくとも、これを普遍的な「道徳」の教育と考えたら、かなりのお門違いといわなければならないと思います。
だいたい、「道徳」というもの自体が、どこでも通用する善であるとか真であるとかは、かならずしもいい切れないことでしょう。
早い話が「よいこととわるいことの区別」といっても、時代とか社会の状況によってずいぶん異なってきます。
同じ今の日本でも、階層とか地位、ひとりひとりの性格や人生観によってかなりちがってくるでしょう。
「しつけ」をむつかしく「道徳教育」などと構えないで、もっとリアルに個々の感覚でやるに徹したほうが無理がないような気がします。
だいいち、親にはそれぞれ子に対する期待があるはず。
その願いをそのままぶつけたらどうでしょう。
子どもとまわりのひとがぶつかり合うことによって、たがいに人間的に熟してゆければそれが最高なのだと思うのです。
気持ちをそのままに
育児に「しつけ」はいらないとはいいませんが、少なくも、そのやりかたを変えて、のんびりしたほうがよさそうに思います。
そんなにいっしょうけんめいにならなくても、子どもはけっこう育ってゆきます。
大人の目からみて、いやなこと、困ったことでも、子どもにとってはごく当たり前、
ひとつも「異常」ではないことだって少なくありません。
赤ちゃんが「指しゃぶり」をやりだすと、たいていのお母さんはあわててその手を払いのけます。
でも、指をしゃぶらない赤ちゃんがいるでしょうか。
二、三歳だって、ひょっとすると小学生でも、ときに指をくわえる子はいます。
でも、なんということなしに、おとなになっていっているでしょう?
「おちんちん」をいじるのにしても、母親にとっては「いやらしい」行為に感じられるかもしれませんが、これも「指しゃぶり」と同じように、子どもにはもともと自然な行為なのです。
それに恥じらいを感じるのはおとなであり、その感覚を子どもに求めるのには無理があります。
「しつけ」には、どうも、こういったくいちがいが多すぎるような気がします。
そのために、幼いときに満たされるべきもの、幼いからこそ感じられるものを、捨て去らせてしまうのは惜しいことです。
「清潔のしつけ」などといって、泥や汗にまみれる喜びを経験させないのでは、神経質な人間をつくるだけです。
赤ちゃんがなんでも口にするのを「ばっちい、ばっちい」ととめてばかりいたら、あまり丈夫には育たないのではないでしょうか。
汚れた手で食べものをワシづかみにほおばることのできない子は、たくましく生きるのがむずかしいでしょう。
いたずらや散らかし、けんかも経験を豊かにし、そこから学びとるものは大きいと思います。
だいいち、そこには、子ども時代があります。
人間は、子どものとき、そういうふうにして生きるのがふつうなのです。
それを「してはいけないこと」という、ひとつのスタンダードでしばり、
「いうことをきく」ようにのみしつけたら、どんな悔いを残すかもしれません。
みかけはしっかりして分別があるように育っても、こころの底では、満たされぬ思いをたぎらせている子どもがあります。
やはり、道徳は、自分のものになっていかなければなりません。
そうでないと楽しくないですし、他人のみていないところでは悪いことをする人間ができてしまうでしょう。
こう考えると、「しつけ」というのは「押しつけ」であってはいけないようです。
「教育」などと大げさにかまえないで、おとなと子どもがいっしょに暮らしていくうえで、たがいにわかり合い、愉快にやっていけるようにすれば、それでよいのだと思えてきます。
子どもに「いうことをきいてもらう」ためには、親も子どものいいぶんをきいてやる必要がありますし、
命令や禁止にいきりたつより、おとなの気持ちをそのままに伝えるほうが、よほど楽にことが運べるのではないでしょうか。
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